裁判員制度スタートまで1年

 裁判員制度について何度も書いてきた。
裁判員制度は真実を見抜くためにあるのか
裁判員制度について
裁判員制度 国会審議から
裁判員制度は「おサルの電車」のようなもの
 こんなに何度も書くのは、私がこの制度を嫌いだからです。裁判の迅速化も必要だし、わかりやすい裁判も必要だ。しかし裁判員制度がその解決になるとは思わない。むしろ弊害の方が多いと考えている。

 裁判員制度スタートまで1年ということでテレビでも新聞でも報道されている。どのメディアでも改めて制度を紹介したり、開始に向けて様々な取り組みが行われていると紹介しているみたい。
 世論調査では国民は決して肯定的に受け止めていない。政府は説明が足りないと言っている。この状況は後期高齢者医療制度と同じではないのか。後期高齢者医療制度は制度が開始されてから野党が廃止に向けて動いている。マスコミも否定的な見方が目立った。
 何故裁判員制度は肯定的に報道されるのか?国民の声の出し方が足りないのだろうか?

 毎日新聞は二面見開きで特集している。政府の説明的のところはすべて飛ばして、突っ込みたいところをピックアップしよう。

 
--最高裁の意識調査では4割近くの人が「義務でも参加したくない」。反対論も根強い。

 6割以上は参加意向だ。さらに制度の意義や職務を具体的に説明して不安を取り除き、積極的な参加意向を持ってもらいたい。審理がおろそかになるなどの懸念は法曹三者の努力と運用で解決できる。守秘義務は重荷との指摘もあるが、自由な発言の保障のためには大切だ。
最高裁事務総長・大谷剛彦さんのインタビュー
 仕方がないから行く人を参加意向とする感覚はいただけない。裁判所が命令すれば行くとの発想か。
--裁判員制度の意義は。

 行政や立法は選挙制度があり、国民的基盤が保証されているが、司法と国民の距離は遠かった。職業裁判官と裁判員が互いの知識や経験を生かして協力することで、司法と国民の距離を近づける意義がある。
検事総長・但木敬一さんのインタビュー
 最高裁判所の裁判官にも信任投票がある。ただそれが実質的に機能しない制度になっているからだ。裁判官は任官後最初の衆議院選挙の時だけ審判を受ける。その後にどんな判決を出そうとも国民には手が出せない。
 この制度を改善せずに裁判員制度を作っても何の意義もない。
--検察の取り組みは。

 国民が裁判員制度を通じて、適正に捜査していると感じることは重要。今までも努力してきたが、容疑者を長時間取り調べるのを避け、弁護人との面会を求められたら即座に対応する姿勢を徹底している。容疑者の自白の任意性を視覚的に納得できるよう、全国で取り調べの一部録音・録画を試行している。
検事総長・但木敬一さんのインタビュー
 これは検察の取り調べを言っているのか?警察の取り調べでフラフラになった被疑者が、検察は信じて良いよと仰っているのか。全く信じられない。
ーー制度の意味は。
 先進国で唯一、専門家だけの裁判をやってきた結果として閉ざされた世界になり、刑事裁判の人権保障機能を十分果たせていない。有罪率99.9%と言う数字はその現れだ。
日弁連会長・宮崎誠さんのインタビュー
 今の刑事裁判を是正しようとする方向は分かる。しかし、それが裁判員制度で実現できると考えていることが甘いのではないか?
ーー裁判所、検察への注文は?
 (一部省略)裁判官が裁判員を誘導するようではダメになる。また検察は自白頼みの捜査公判から脱却すべきだ。裁判員にきちんと理解してもらうには一部の録画・録音では不十分だ。
日弁連会長・宮崎誠さんのインタビュー
 一部の録画・録音は不十分ではなく有害だと思うが、その他の主張はその通りだと思う。しかし、裁判員制度の運用の中でこれらが実現できているとは全く思わない。日弁連会長は自身の裁判経験を通してどうなるのか分かっているのだろうかと非常に不安になる。
 
「今の裁判に必要なのは裁判員の『常識』です。」、「負担は大きい。けれどよりよい裁判にするため、市民の参加が必要なのです」
日弁連・裁判員制度実施本部副本部長の言葉
 言っていることは正論だ。そうなればいいだろう。しかし、今の裁判員制度の中で可能と思っているのか?是正のための努力をしているのか?私には理解できない。

 こんな事も報道されている。
来年5月に始まる裁判員制度で、日本法医学会(理事長・中園一郎長崎大教授)と最高検は、市民から選ばれる裁判員の心理的負担を軽くするため、遺体の写真の代わりにイラストやコンピューターグラフィックス(CG)を使った立証を積極活用する方針を決めた。毎日新聞
イラストやCGに改ざんがないことを本当に保証できるのか?弁護士がそれを見て証拠採用に合意したもののはずだが、裁判員としてそれで良いのだろうか?どれだけ残酷であろうとも、直視なければならないのは、裁判官であり裁判員ではないのだろうか。生の証拠のみが裁判では必要ではないのだろうか?

 この特集の最大のスペースは裁判のシミュレーションだ。裁判員制度:実施まであと1年 シミュレーション あなたが選ばれたら(上)
裁判員制度:シミュレーション あなたが選ばれたら(下)
これを誰が書いたのかは記述がない。一応記者が書いたものと仮定しておこう。

 裁判員に選ばれ、忌避の申し立てなどの話がある。公判は三日間で、検察、弁護人の陳述、証人の証言と続く。ここで目を引いたのは裁判員が被告に質問する場面だ。そんなことが出来るとは初めて知った。公判は二日半で終わる。
 ここでは、事件証拠や調書や現場の様子を検討する時間など一切なく、いきなり公判に座るとなっている。
 三日目の午後に評定に入る。そこでのやりとり。
裁判長が「まず、殺意について話しましょう」と切り出した。裁判員の50代女性は「事件のすべてを見ていた人はいない。何かの拍子にナイフが刺さった可能性もある」と発言。だが、ナイフの形状や傷の状況、被害者の被告への暴行がそれほど激しいものではなかったことなどから「殺意はあった」との声が多い。3日間悩んだ松本さんも「かっとして『死んでも構わない』と刺したのだろう」と同意した。

 裁判長が議論をまとめにかかった。しかし、女性裁判員は「納得できない。言わせてください」と発言。意見が揺らぐ裁判員もおり、時間が刻々と過ぎていく。裁判長が「どうでしょうか。『殺意あり』が多いようですが」と水を向ける。評決を取ることに皆が同意し、9人の全員一致で「殺人罪が成立する」との結論に至った。
 ここでは多数決で決めるはずなのに、裁判官がまとめに入るのか。裁判官が裁判員を誘導する場面だと思う。
続いて量刑の判断に議論は移った。裁判長に促され、全員が意見を述べた。「計画的じゃないし、被害者にも落ち度はある。被告は若いし反省している。でも、被害者の母親の声は胸に響いた。やはり命を奪うのは許されない」。松本さんは、そう語り検察側と同じ懲役12年が適当だと考えた。9人の意見は、懲役20年から6年までばらついた。

 そこで裁判長が同種事件の過去例を示す。「懲役12年から8年くらいのケースが多いです」。それを受け、2人が懲役11年、4人が懲役10年、3人が懲役8年を主張した。
 ここでも同様のやりとりだ。
 こうなると私も思っていたが、シミュレーションでも示されている。これが正当な裁判なのだろうか?

 「12人の怒れる男たち」はアメリカの陪審員の評決を描いた映画だ。ヘンリーフォンダが、野球をみたいとか言って早く帰りたい他の陪審員を説得して、証拠を吟味しようとする。同格の陪審員であってもそれは困難な作業だ。
 まして、専門家の裁判官がいて、その誘導を振り切って思うことを出来るものだろうか?出来るケースはまれだと思う。

 裁判を短期に終わらそうと、殺人事件である重大事件を三日で裁けるものなのか?双方の争点が少ない場合は可能かも知れない。しかしすべてがそうではない。
 証拠は公判前整理手続きでわかりやすくというか、有罪まっしぐらのストーリーが、整理されて、視覚的に示される。被告側の準備がそれに対応できるのだろうか?裁判は整理手続きで勝負が決まるのではないだろうか?
 そこには、被告の自白ビデオも、遺体のCGも一役買う。最後の評決では裁判官が誘導し、裁判員の意見をつぶすためには裁判官が一人も賛成しなければ再度の議論が必要になる。早く帰りたい裁判員は妥協をすることだろう。

 後期高齢者医療制度は制度の開始後に国民の怒りが政治を動かしつつある。裁判員制度の世論も同様だ。おかしな裁判をして、当事者を不幸にする前に見直して欲しいものだ。


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この記事へのコメント

カタカナサヨク
2008年05月23日 02:36
私は、国民の肌で感じる常識とかけなはれた判決を出しているのは、最高裁だと思います。自称「憲法の番人」だそうですが、政府よりの判決を連発して、どこが「番人」なのでしょう。裁判員制度は、刑法総論の教科書やテキストの最初のほうに書いてあるような、国や政府のない時代の、個人の個人による復讐、もしくは、ヒトラーの全体主義時代の刑事裁判を髣髴させます。
どうしても、というのであれば、大法廷・小法廷を問わず、最高裁の審理から、導入すべきだと思います。
カタカナサヨク
2008年05月23日 02:41
先日、某民放の深夜番組で、アメリカのCBSのドキュメンタリーを放送していました。それによると、二人の警察官殺人事件で、弁護人に対して、当該被疑者であり依頼者は、「二人とも殺したのは自分だと」、告げたにもかかわらず、その前の段階で、別の市民が、逮捕・起訴され、陪臣でも死刑か終身刑かが争われ、かろうじて終身刑が確定し、服役させられた無実の市民がいた、という事実が存在したとのことです。初めの被告人の弁護人は、弁護士の守秘義務があり、明らかに誤審・冤罪だ、とわかっても、それを公開することが制度的にも実質的にも難しく、現在に至った、という内容でした。確か、逮捕起訴され、刑が確定して服役している人は、今年で26年目になるとのことでした。
2008年05月24日 01:11
カタカナサヨク さん
裁判員制度の対象事件を殺人事件などにしたのが彼らの狙いであり、問題の所です。世間の関心の高いものは殺人事件ばかりではない。マスコミがそれをあおるからそうなっているだけだ。
憲法に違反するか否か、これが最も重要な裁判である事は明らかな事であり、これを対象とするべきでしょう。
えん罪の防止は日弁連が期待している事のようだが、裁判員に阻止する力があるのか疑問です。
カラ
2008年05月24日 01:51
賛成です。
なんとか止めさせる方法が無い物でしょうか。
カタカナサヨク
2008年11月21日 12:50
最高裁の裁判官には、今年まで、社会保険庁の長官経験者がいましたね。こっそりと退官しているようです。
さて、裁判院制度は、小泉内閣のイカサマ翼賛選挙の結果、単独多数を占めた有象無象の与党議員が、アメリカの意向を汲んで、強行採決を繰り返して、実現したものではないのでしょうか?
最高裁自体も、この制度をアピールするためのタウンミーティングで、「サクラ」をやとっていました。裁判員制度というなら、何より、自分たち自身の不正を反省するために、「横浜事件」にきちんと無罪判決を出し、謝罪してからの話です。もしくは、最高裁の大法廷・小法廷に、行政官経験者ではなく国民からくじで選ばれた人たちに参加して意見を尊重しなければならないと思います。
ロケットの夏
2008年11月21日 20:35
裁判員制度は裁判の迅速化の為でも真実の追究の為でもなく、行政的立場からの御都合主義であり、裁判の結果を検察側に導くと共に、責任を裁判員に押し付けるものです。
2008年11月21日 22:52
ロケットの夏さんのまとめられた通りですね。
司法の偏向、これが非常に大きな問題であると私も思います。

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